住民発議(権)という訳語について
■ 最初の難題 Citizens' Initiative
Citizens' Initiative はキーワード中のキーワード。
直接民主主義を考えるうえでの最重要ワードです。
辞書にはこのように記載されています。
Citizens:citizenの複数形。
(出生または帰化により市民権をもつ)公民、国民、人民、市民、住民。
Initiative:主導権、議案提出権、発議権、イニシアチブ。
■ 日本では発議権という概念を省略する傾向
Citizens' Initiative は本来、国民(州民)都道府県民・市民・町民・村民による「発議権」を意味する言葉です。
しかしながら、日本で報道されるときには「発議する権利」という部分が省略されて、ただ「国民投票」としか表記されないケースが多いのです。
■ 同じ名称であっても、海外とは違う制度
Citizens' Initiative は、日本では住民発議(権)/直接請求(権)などと訳される場合もあります。
注意すべきは、日本の住民発議(権)/直接請求(権)が、海外のそれに比べると、制度的に大きく立ち遅れているという点です。
スイスの住民発議(権)/直接請求(権)は法律によって手厚く保護されており、投票結果にも拘束力があります。
それに比べると、日本の住民発議(権)/直接請求(権)は非常に不安定な権利です。住民投票に必要な署名を集めても、議会の反対されると、住民投票を開催できないこともあります。投票結果に拘束力もありません。
■ 市民?イニシアチブ?
EU加盟国の有権者にはEUに対する議題発議権(=The European Citizens' Initiative)
があり、欧州市民イニシアチブと訳されています。
市民イニシアチブも魅力的な訳語ではありますが、「市民」という言葉で統一してしまうと、国民・(州民)・都道府県民・町民・村民にも発議権があることがわかりにくくなってしまいます。
「市民イニシアチブ」あるいは「イニシアチブ」を「住民が発議できる権利」と理解できる人は、恐らくは、ごく少数の識者に限られるでしょう。
「市民イニシアチブ」あるいは「イニシアチブ」という訳語では、大多数の人を迷子にしてしまう危険性もあります。
■ 住民発議(権)
以上のことを考え合わせた結果、このブログでは、
Citizens' Initiative という最重要ワードに
「住民発議(権)」という訳語を
あてることにいたしました。
Citizens には、国民・(州民)・都道府県民・市民・町民・村民を包括できる言葉として「住民」を対応させることがふさわしいと考えたからです。
Initiative は、漢字から意味を判断できる「発議(権)」と訳すほうが、無用の混乱を招かずにすみます。
(権)は、文脈によって使い分けます。